ガイドライン整備は進んでいるが、最大の難しさは、作成そのものより現場で機能させることにある。共通の基盤や手引きが求められている。
入学前の生成AI利用経験の把握はまだ十分に進んでおらず、中等教育との情報共有や接続の仕組みが必要である。
教職員と学生への支援は十分に広がっておらず、小規模校ほど対応に差がある。機関を超えた先行事例・教材の共有が鍵となる。
経済的理由による利用格差への対応はほぼ確認されていない。個別機関の努力だけでなく、公的な基盤整備が必要である。
生成AIは、大学生にとって身近な学習ツールになりつつある。国内外の調査でも利用経験の広がりが示されており、大学には、これらが広く利用されることを前提としたルールや支援が求められている。
本調査では、ガイドラインの有無だけでなく、運用上の難しさ、支援体制、システム整備の状況まで含めて把握することを目指した。
対象:全国1,165の大学(4年制・短期大学)および高等専門学校
方法:Googleフォームを用いたWebアンケート。各機関の機関長宛てに依頼状を送付し、回答を求めた。
調査期間:2025年9月10日〜10月20日
有効回答:113機関(回答率9.8%)
設問構成:7セクション28項目(質問項目一覧 PDF)
倫理審査:桜美林大学研究倫理審査の承認を受けて実施(倫理審査番号:25020)
回答は匿名で収集しており、特定の機関や個人を識別できる情報は含まない。一方で、回答率は9.8%にとどまり、収容定員1,000人未満の機関が約半数を占める。したがって、ここで示す結果は全国の高等教育機関全体をそのまま表すものではなく、回答した機関にみられた傾向として読むのが適切である。
回答機関の約半数は収容定員1,000人未満で、学校種では私立大学(4年制)が47.7%を占めた。大規模機関の比率は相対的に小さいため、以下の図表にも中小規模機関の状況がやや強く反映されている可能性がある。
学内ガイドラインについては、「策定済み」が45.1%、「策定中」が23.0%で、回答機関の約7割が何らかの形で整備を進めていた。この傾向は、UNESCO (2025) が示す国際的な状況ともおおむね重なる。
一方で、「策定の予定はない」は31.9%で、1,000人未満の小規模校では44.6%にのぼった。また、策定済み機関の66.7%は初版のまま運用しており、技術の進展や社会の変化に合わせて継続的に見直すための運用体制はまだ十分ではないことがうかがえる。
ガイドラインに入れるべき内容として最も多く挙がったのは、「法令順守、プライバシー漏洩、偽情報等の注意事項」(94.5%)だった。これに「授業運営に関すること」(67.3%)、「適切・効果的な利用法の紹介」(62.7%)が続いた。
一方で、「改訂方針」は48.2%にとどまった。回答機関では、何を盛り込むかに比べて、どう見直していくかの議論はまだ十分に進んでいない可能性がある。
「困難」または「極めて困難」とする回答が最も多かったのは、「ガイドラインが順守されるよう実質的に機能させること」(85.8%)だった。次いで「技術進展の速さへの対応」(83.2%)、「リソースの準備」(77.0%)が続き、上位5項目はいずれも72%を超えた。
これに対して、「生成AIとは何かを定義し説明すること」を困難とした割合は28.3%にとどまった。難しさの中心は、AIの説明そのものより、機関内で運用ルールや許容範囲を調整し続ける点にある。
教員・職員・学生向け支援のいずれにおいても、「特に行っていない」との回答が最多であった。教員向け49.6%、職員向け50.4%、学生向け46.9%と、約半数の機関では具体的な支援が行われていない。
支援している機関でも中心は研修会で、有料AIサービスの提供や独自システムの整備は1割前後にとどまる。支援は始まっているが、まだ限定的である。
学生経済的理由によるAI格差(デジタル格差)に配慮した支援は、回答の中では確認されなかった。支援がないまま利用が広がれば、学生のAI利用環境の差が、そのまま学習機会の差につながるおそれがある。
複数選択可。1%未満の自由記述回答は省略。0%の項目はバーを最小幅で表示。
AI関連のシステム基盤について、「特に何もしていない」が50.4%と最多であった。有料AIサービス(ChatGPT Edu、Copilot等)のアカウント提供は26.5%、外部APIの学内システムへの統合は15.9%にとどまり、過半数の機関ではインフラが未整備のまま利用が進んでいる状況がうかがえる。
収容定員別にみると、小規模校(4,000人未満)と大規模校(4,000人以上)の間には、ガイドライン策定やシステム整備で大きな差がみられる。特に注目すべきは、「有料AIサービスの提供」における約2.7倍の差(18.8%対50.0%)である。
生成AIが学生にとって日常的な学習インフラとして定着しつつある現在、これらの高機能なサービスへのアクセスが所属機関によって左右される状況は、看過できないデジタル格差・AI格差の予兆を示している。各機関の自助努力に委ねるだけでなく、高等教育全体としての公的支援や共同調達といった枠組みが求められる。
「教職員の業務効率化および授業設計支援につながる」には94.6%が肯定的に回答しており、業務改善への期待は非常に大きい。
一方で、「学生の思考力・判断力・批判的思考の低下リスクを高める」は、肯定47.3%と中立46.4%がほぼ並んだ。生成AIを一律に否定する見方は少ないが、学習への影響は慎重に見極めようとしている機関が多い。
ガイドラインの策定主体としては、「各機関が独自に策定すべき」(66.4%)と「文部科学省が共通ガイドラインを策定すべき」(56.4%)が上位を占めた。複数選択であることを踏まえると、共通の土台が示された上で、各機関が自校の事情に合わせて柔軟に調整する形が望まれているとみられる。
中等教育段階での生成AI活用については、「限定的にしか把握していない」と「全く把握していない」を合わせると85.9%に達した。多くの機関は、入学してくる学生がどの程度AIに触れてきたのかを十分には把握できていない。
一方で、高校生のAI利用は広がっている。スタディサプリ進路 (2025) の調査では、高校生の9割が生成AIの利用経験があると答えており、これら「AIネイティブ世代」(Oxford University Press, 2025)の受け入れに向けて、高大間でのAIリテラシーに関する情報共有が急務となっている。
研究活動における生成AI利用は、「ほとんど把握していない」が58.6%を占めた。また、研究利用に関するガイドラインの策定主体については「国や行政機関」(68.5%)や「高等教育機関の中央組織」(58.6%)が上位に挙がった。これは「学問分野ごとの学会や専門団体」(30.6%)も上回っており、研究者の自己裁量(4.5%)に委ねるよりも、国や大学といった上位組織による包括的で明確な指針の提示が強く求められている。背景には、生成AIの利用が分野ごとの研究手法という枠を超え、情報漏洩等の法的リスクやシステム整備を伴うガバナンス課題として捉えられているのかもしれない。
今後の重点施策では、「学生向けリテラシー教育の強化」(75.2%)と「教職員向け研修体制の充実」(70.8%)が上位を占め、「ガイドラインの整備・改訂」(61.1%)を上回った。ガイドライン整備は引き続き重要だが、焦点は、ルールを整える段階から、現場で使いこなすための教育支援や能力開発へ移りつつある。
「経済力・ジェンダー・母国語に由来する格差の是正」を重点施策に挙げた機関は4.4%にとどまった。現在の支援状況(図6c:関連する支援を行っている機関が0%)とあわせると、格差是正の必要性は認識されつつも、課題としての優先順位は低く考えられている可能性がある。
生成AIガイドラインの実質化や見直しは、現状最大の課題となっている。各機関がゼロから作るのではなく、最低限の項目や実践事例のひな形を広く共有できる土台が必要である。
入学前の生成AI利用経験はすでに広がっている。高校までにいかなる学習経験を積んできたかを把握し、大学の初年次教育や授業設計へ確実につなげる仕組みが必要である。
リソースの限られる小規模校を中心に、対応の差が広がりつつある。高等教育全体で知見を底上げできるよう、先行事例や失敗事例を共有し合える場が不可欠である。
生成AIへの公平なアクセス確保を個別機関の努力に委ねるには限界がある。共同調達や一括ライセンス、財政支援など、高等教育全体を基盤から支える公的・共同的な枠組みの構築が急務である。