高等教育機関における
生成AI導入の実態調査調査結果

課題研究「高等教育における生成AI利用のガイドラインに関する研究」| 2024〜2026年度
研究代表者:田中一孝(桜美林大学)
研究分担者:松下佳代(京都大学)、斎藤有吾(新潟大学)、村上正行(大阪大学)、渡邊浩一(福井県立大学)、伊藤通子(東京都市大学)、羽倉尚人(東京都市大学)、平山朋子(藍野大学)、杉山芳生(藍野大学)、澁川幸加(中央大学)、石上敬子(近畿大学)、田中孝平(北海道大学)、我喜屋まり子(京都大学)
調査期間:2025年9月〜10月
調査結果公開:2026年5月

高等教育機関の長に「生成AI導入の実態調査」を実施

113
回答機関全国1,165機関中
68.1%
生成AIガイドライン
「策定済み」または「策定中」策定済み45.1% + 策定中23.0%
85.8%
最大の困難は
「ガイドラインの実質化」技術理解の困難(28.3%)を大きく上回る
各領域で「特に行っていない」と回答した割合
49.6%教員向け支援
50.4%職員向け支援
46.9%学生向け支援
50.4%学内のAI環境整備
0%
経済的理由による生成AI利用の不利(格差)に対応している例は、
回答した113機関からは確認されなかった
要点

ガイドラインの実質化

ガイドライン整備は進んでいるが、最大の難しさは、作成そのものより現場で機能させることにある。共通の基盤や手引きが求められている。

高大接続

入学前の生成AI利用経験の把握はまだ十分に進んでおらず、中等教育との情報共有や接続の仕組みが必要である。

支援と実践手法の共有

教職員と学生への支援は十分に広がっておらず、小規模校ほど対応に差がある。機関を超えた先行事例・教材の共有が鍵となる。

公平性と公的支援

経済的理由による利用格差への対応はほぼ確認されていない。個別機関の努力だけでなく、公的な基盤整備が必要である。

生成AI利用を前提とした大学対応

生成AIは、大学生にとって身近な学習ツールになりつつある。国内外の調査でも利用経験の広がりが示されており、大学には、これらが広く利用されることを前提としたルールや支援が求められている。

本調査では、ガイドラインの有無だけでなく、運用上の難しさ、支援体制、システム整備の状況まで含めて把握することを目指した。

調査概要と解釈上の留意点

調査概要

対象:全国1,165の大学(4年制・短期大学)および高等専門学校
方法:Googleフォームを用いたWebアンケート。各機関の機関長宛てに依頼状を送付し、回答を求めた。
調査期間:2025年9月10日〜10月20日
有効回答:113機関(回答率9.8%)
設問構成:7セクション28項目(質問項目一覧 PDF
倫理審査:桜美林大学研究倫理審査の承認を受けて実施(倫理審査番号:25020)

結果を見るときの注意

回答は匿名で収集しており、特定の機関や個人を識別できる情報は含まない。一方で、回答率は9.8%にとどまり、収容定員1,000人未満の機関が約半数を占める。したがって、ここで示す結果は全国の高等教育機関全体をそのまま表すものではなく、回答した機関にみられた傾向として読むのが適切である。

回答機関の構成

回答機関の約半数は収容定員1,000人未満で、学校種では私立大学(4年制)が47.7%を占めた。大規模機関の比率は相対的に小さいため、以下の図表にも中小規模機関の状況がやや強く反映されている可能性がある。

図1 学校種別(複数選択)
私立大学(4年制)53
私立短期大学29
国公立大学(4年制)25
高等専門学校7
国公立短期大学4
通信制大学2
図2 収容定員(n=113)
1,000人未満56
1,000〜4,000人29
4,000〜8,000人16
8,000〜16,000人9
16,000人以上3
要点

ガイドラインを用意する機関は増えているが、見直しや更新まで含めた運用体制はまだ十分ではない。

進むガイドライン策定と、「見直し体制」の課題

学内ガイドラインについては、「策定済み」が45.1%、「策定中」が23.0%で、回答機関の約7割が何らかの形で整備を進めていた。この傾向は、UNESCO (2025) が示す国際的な状況ともおおむね重なる。

一方で、「策定の予定はない」は31.9%で、1,000人未満の小規模校では44.6%にのぼった。また、策定済み機関の66.7%は初版のまま運用しており、技術の進展や社会の変化に合わせて継続的に見直すための運用体制はまだ十分ではないことがうかがえる。

図3 ガイドライン策定状況(n=113)
策定済み 45.1%
策定中 23.0%
予定なし 31.9%

記載内容は「リスク対応」が大半

ガイドラインに入れるべき内容として最も多く挙がったのは、「法令順守、プライバシー漏洩、偽情報等の注意事項」(94.5%)だった。これに「授業運営に関すること」(67.3%)、「適切・効果的な利用法の紹介」(62.7%)が続いた。

一方で、「改訂方針」は48.2%にとどまった。回答機関では、何を盛り込むかに比べて、どう見直していくかの議論はまだ十分に進んでいない可能性がある。

図4 ガイドラインに含まれている内容(複数選択、n=110)
法令順守、プライバシー漏洩、偽情報等の使用に際して注意すべきことがら
94.5%
担当教員の指示の必要性、不正対応、評価方法の工夫等、授業運営に関すること
67.3%
生成AIの適切・効果的な利用法の紹介
62.7%
生成AIが抱える社会問題(特定企業への情報集中、情報バイアスなど)への配慮
50.9%
社会の状況に合わせたガイドラインの改訂方針
48.2%
生成AI利用環境の整備、AIリテラシー科目設置など、生成AI導入に関する将来的な方針
40.9%
生成AIの利用に関する能力開発・自己研鑽の奨励
31.8%
情報学・情報教育関連学会・団体との連携関係
12.7%
要点

最も大きな課題は、AIそのものを理解することではなく、ガイドラインを現場で機能させることにあった。支援体制についても、まだ広く整っているとは言い難い。

運用上の最大の困難は「ガイドラインの実質化」

「困難」または「極めて困難」とする回答が最も多かったのは、「ガイドラインが順守されるよう実質的に機能させること」(85.8%)だった。次いで「技術進展の速さへの対応」(83.2%)、「リソースの準備」(77.0%)が続き、上位5項目はいずれも72%を超えた。

これに対して、「生成AIとは何かを定義し説明すること」を困難とした割合は28.3%にとどまった。難しさの中心は、AIの説明そのものより、機関内で運用ルールや許容範囲を調整し続ける点にある。

図5 ガイドライン策定における困難の程度(「困難」+「極めて困難」の合計%、n=113)
ガイドラインが順守されるよう実質的に機能させること
85.8%
技術進展の速さへの対応
83.2%
ガイドライン策定に関わるリソース(時間・人材等)の準備
77.0%
内部関係者間の意識・価値観の統一
74.3%
倫理・法的・プライバシー問題などの整理
72.6%
学問分野の違いや多様な利用目的への配慮
67.3%
ガイドラインに関する外部情報・先行事例の収集
47.8%
生成AIとは何かを定義し説明すること
28.3%

教職員・学生へのAI支援は「未実施」が最多

教員・職員・学生向け支援のいずれにおいても、「特に行っていない」との回答が最多であった。教員向け49.6%、職員向け50.4%、学生向け46.9%と、約半数の機関では具体的な支援が行われていない。

支援している機関でも中心は研修会で、有料AIサービスの提供や独自システムの整備は1割前後にとどまる。支援は始まっているが、まだ限定的である。

懸念点

学生経済的理由によるAI格差(デジタル格差)に配慮した支援は、回答の中では確認されなかった。支援がないまま利用が広がれば、学生のAI利用環境の差が、そのまま学習機会の差につながるおそれがある。

図6a 教員の生成AI活用に対する支援(複数選択、n=113)
特に行っていない
49.6%
研修会を実施している
25.7%
状況を把握していない
11.5%
有料AIサービスのアカウント発行や費用補助を行っている
10.6%
AIツールの利用マニュアル作成や問い合わせ対応を行っている
10.6%
シラバスにおいてAI利用の方針を記載するよう教員に依頼・推奨している
8.8%
教員用の生成AIシステムを開発・提供している
4.4%
図6b 職員の生成AI活用に対する支援(複数選択、n=113)
特に行っていない
50.4%
研修会を実施している
29.2%
AI導入やチャットボット導入に伴うマニュアルやFAQを整備している
10.6%
有料AIサービスを利用するためのアカウント発行や費用補助を行っている
10.6%
状況を把握していない
8.8%
職員向けの生成AIシステムを開発・提供している
6.2%
図6c 学生の生成AI活用に対する支援(複数選択、n=113)
特に行っていない
46.9%
既存科目で生成AIの活用方法を扱っている(または扱う計画がある)
38.1%
生成AIに関連した新しい科目を設置している(または設置を計画している)
9.7%
状況を把握していない
7.1%
ChatGPT Plusなど有料サービスを学生に割引または無償提供している
6.2%
学生向け研修会を実施している
3.5%
学生用の生成AIシステムを開発・提供している
2.7%
経済的理由による生成AI利用格差を解消する支援を実施している
0%
多様な背景に応じた公平なAIアクセス環境を整備している(例:言語、障がい、学習スタイル、ジェンダーなど)
0%

複数選択可。1%未満の自由記述回答は省略。0%の項目はバーを最小幅で表示。

AIシステム基盤は「特に行っていない」が過半数

AI関連のシステム基盤について、「特に何もしていない」が50.4%と最多であった。有料AIサービス(ChatGPT Edu、Copilot等)のアカウント提供は26.5%、外部APIの学内システムへの統合は15.9%にとどまり、過半数の機関ではインフラが未整備のまま利用が進んでいる状況がうかがえる。

図7 生成AIに関連するシステムの導入・開発形態(複数選択、n=113)
特に何もしていない
50.4%
ChatGPT Edu、ChatGPT Plus、Microsoft Copilot など有料AIサービスのアカウントを学内で利用できるようにしている
26.5%
学外のサービス(例:Azure AI、Google Cloud Gemini API 等)を学内システムに取り込んで活用している
15.9%
主として学内のリソースを用いて、独自に開発を行っている
7.1%

機関間における「AI格差」への懸念

収容定員別にみると、小規模校(4,000人未満)と大規模校(4,000人以上)の間には、ガイドライン策定やシステム整備で大きな差がみられる。特に注目すべきは、「有料AIサービスの提供」における約2.7倍の差(18.8%対50.0%)である。

生成AIが学生にとって日常的な学習インフラとして定着しつつある現在、これらの高機能なサービスへのアクセスが所属機関によって左右される状況は、看過できないデジタル格差・AI格差の予兆を示している。各機関の自助努力に委ねるだけでなく、高等教育全体としての公的支援や共同調達といった枠組みが求められる。

表1 機関規模による対応差
4,000人未満4,000人以上
ガイドライン「策定予定なし」37.6%14.3%
職員向け支援「未実施」61.2%17.9%
AI関連システム「未整備」60.0%21.4%
有料AIサービス提供18.8%50.0%
要点

生成AIへの期待は大きいが、学習への影響については慎重な見方も多い。ガイドラインは、共通の考え方を持ちつつ、各機関の事情に合わせて整える形が望まれている。

高い「業務への期待」と、慎重な「学習への影響」

「教職員の業務効率化および授業設計支援につながる」には94.6%が肯定的に回答しており、業務改善への期待は非常に大きい。

一方で、「学生の思考力・判断力・批判的思考の低下リスクを高める」は、肯定47.3%と中立46.4%がほぼ並んだ。生成AIを一律に否定する見方は少ないが、学習への影響は慎重に見極めようとしている機関が多い。

図8 生成AIの高等教育への影響に対する見方(n=110-111)
肯定的(そう思う) どちらでもない 否定的(そう思わない)
生成AIへの期待
教職員の業務効率化および授業設計支援につながる
94.6%
5.4%
PCなどと同程度に中立的なツールとして活用される
67.3%
25.5%
7.3%
高等教育の社会的な価値をさらに高める
57.3%
36.4%
6.4%
学生の学修の質を向上させる
52.7%
41.8%
5.5%
生成AIへの懸念
学生の思考力・判断力・批判的思考の低下リスクを高める
47.3%
46.4%
6.4%
学生間の学修成果の格差を広める
40.9%
46.4%
12.7%
高等教育機関の格差を広める
33.6%
51.8%
14.5%

機関固有ガイドラインと求められる共通基盤

ガイドラインの策定主体としては、「各機関が独自に策定すべき」(66.4%)と「文部科学省が共通ガイドラインを策定すべき」(56.4%)が上位を占めた。複数選択であることを踏まえると、共通の土台が示された上で、各機関が自校の事情に合わせて柔軟に調整する形が望まれているとみられる。

図9 ガイドラインの策定主体はどうあるべきか(複数選択、n=110)
各高等教育機関が固有の教育・運営方針のもとガイドラインを策定すべき
66.4%
文部科学省が共通ガイドラインを策定すべき
56.4%
高等教育全体が協力して共通のガイドラインを策定すべき
24.5%
授業・科目ごとに教員がポリシーを示すべき
21.8%
学会などが主導して学問分野ごとにガイドラインを策定すべき
15.5%
要点

入学前や研究での生成AI利用について、大学は十分に把握できていない。また、今後の重点は、ガイドライン整備を続けながら、教育や研修の充実へと移りつつある。

入学前の「AI利用経験」は8割超が十分把握せず

中等教育段階での生成AI活用については、「限定的にしか把握していない」と「全く把握していない」を合わせると85.9%に達した。多くの機関は、入学してくる学生がどの程度AIに触れてきたのかを十分には把握できていない。

一方で、高校生のAI利用は広がっている。スタディサプリ進路 (2025) の調査では、高校生の9割が生成AIの利用経験があると答えており、これら「AIネイティブ世代」(Oxford University Press, 2025)の受け入れに向けて、高大間でのAIリテラシーに関する情報共有が急務となっている。

図10 中等教育における生成AI活用状況の把握度(n=113)
限定的 49.6%
全く把握していない 36.3%
詳細に把握 3.5% ある程度 8.0% 限定的 全く把握していない

「研究活動でのAI利用」の把握状況と国の指針への期待

研究活動における生成AI利用は、「ほとんど把握していない」が58.6%を占めた。また、研究利用に関するガイドラインの策定主体については「国や行政機関」(68.5%)や「高等教育機関の中央組織」(58.6%)が上位に挙がった。これは「学問分野ごとの学会や専門団体」(30.6%)も上回っており、研究者の自己裁量(4.5%)に委ねるよりも、国や大学といった上位組織による包括的で明確な指針の提示が強く求められている。背景には、生成AIの利用が分野ごとの研究手法という枠を超え、情報漏洩等の法的リスクやシステム整備を伴うガバナンス課題として捉えられているのかもしれない。

今後の重点施策は「学生教育」と「教職員研修」

今後の重点施策では、「学生向けリテラシー教育の強化」(75.2%)と「教職員向け研修体制の充実」(70.8%)が上位を占め、「ガイドラインの整備・改訂」(61.1%)を上回った。ガイドライン整備は引き続き重要だが、焦点は、ルールを整える段階から、現場で使いこなすための教育支援や能力開発へ移りつつある。

図11 生成AIに関して今後重点的に取り組むべき施策(複数選択、n=113)
学生向けリテラシー教育の強化
75.2%
教職員向けの研修体制の充実
70.8%
ガイドラインの整備・改訂
61.1%
分野別の専門科目や活用事例の拡充
22.1%
高校との連携・連動プログラムの実施
10.6%
特にそうした施策を行う予定はない
9.7%
経済力、ジェンダー、母国語に由来するAI利用環境や情報格差の是正
4.4%
様々な背景から生じるデジタル格差

「経済力・ジェンダー・母国語に由来する格差の是正」を重点施策に挙げた機関は4.4%にとどまった。現在の支援状況(図6c:関連する支援を行っている機関が0%)とあわせると、格差是正の必要性は認識されつつも、課題としての優先順位は低く考えられている可能性がある。

本調査からの提言

「機関単独の努力」から「全体で支えるインフラ」へ

生成AIへの対応は、もはや各機関が単独で抱えきれる課題ではない。これからの高等教育全体を下支えしていくため、本調査では4つのアプローチを提言する。「学内」での運用から始まり、「高大間」や「大学間」の相互連携、そして「国・社会」レベルの公的基盤へと、多層的に対応の視野と規模を広げていくことが不可欠である。

1

【学内】学内ガイドラインの運用と実質化

生成AIガイドラインの実質化や見直しは、現状最大の課題となっている。各機関がゼロから作るのではなく、最低限の項目や実践事例のひな形を広く共有できる土台が必要である。

2

【高大間】中等教育の状況をふまえた接続

入学前の生成AI利用経験はすでに広がっている。高校までにいかなる学習経験を積んできたかを把握し、大学の初年次教育や授業設計へ確実につなげる仕組みが必要である。

3

【大学間】孤立を防ぐ実践共有ネットワーク

リソースの限られる小規模校を中心に、対応の差が広がりつつある。高等教育全体で知見を底上げできるよう、先行事例や失敗事例を共有し合える場が不可欠である。

4

【国・社会】インフラ格差を抑える公的支援

生成AIへの公平なアクセス確保を個別機関の努力に委ねるには限界がある。共同調達や一括ライセンス、財政支援など、高等教育全体を基盤から支える公的・共同的な枠組みの構築が急務である。